ピロリ菌治療の胃がん抑制と三次除菌治療

ヘリコバクターピロリ菌除菌後の胃癌リスク

ヘリコバクターピロリ菌に生まれつき感染していない方の胃粘膜は全く炎症がない、萎縮性胃炎がない、老化現象がないということで、胃がんが発症することはまれです。しかし、長年感染していた方に対して除菌治療を行い、成功しても、もとの未感染の胃粘膜には戻らないのです。
好中球の浸潤を主体とする活動性胃炎は改善し、消化性潰瘍の再発もほとんどなくなります。また、炎症をベースにした胃の過形成性ポリープも消失します。

胃がんに関しては、全国での多施設共同試験の結果が2008年の「ランセット」に報告されました。胃がんの発症をフォローしていきますと、除菌成功群の異時性胃がんの発症率が約3分の1に低下するという成績でした。しかしながら、がんは分子レベルでDNAの損傷が蓄積され発症します。肉眼的に内視鏡で見える3~5㎜の胃がんに成長するのに10年程度かかるといわれています。胃がんのリスクは残ると考えたほうがいいと思いますので、除菌成功後も定期的な内視鏡検査は必要です。ただ、炎症が改善すると細胞増殖能は明らかに低下しますので、胃がんの進行速度を遅くする可能性は十分あります。また、ピロリ菌に感染した胃の粘膜は、付着した粘液で汚かったりしますので、3㎜ぐらいの小さながんが見えにくい場合があります。これが除菌すると非常に見やすくなり、早期胃がんがみつけやすくなります。今の時代は、内視鏡で取れる胃がんというのは1週間で治ってしまいますので、早期発見にも除菌治療は有用です。

除菌治療の有効率と三次除菌

第一次除菌治療、これはプロトンポンプ阻害剤(PPI)とアモキシシリン、それにクラリスロマイシンという3剤併用ですが、最近、クラリスロマイシンの耐性菌が増えており、現在、70~80%の除菌成功率です。2007年に、二次除菌治が承認されました。これはクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変えた治療法で、95%ぐらいの除菌が可能です。
これらの治療が無効な場合の三次除菌治療が、いろいろな施設から報告されています。シタフロキサシンを用いた3剤併用が有効率が高く、PPIとアモキシシリンとシタフロキサシンを2週間使用し、70%の除菌率です。保険承認されていませんが、自費診療で行うことが可能です。
 
ピロリ菌の保菌者は20代で10%いません。5歳未満で約2%ぐらいと報告されています。現在相当数のヘリコバクターピロリ菌の感染者が除菌されていますので、今後、高齢者も陽性者が減っていくと思います。